スティーリー・ダン

「一番好きなアーティストは誰か?」という問いに対し、私は「スティーリー・ダン」と答えるだろう。

ドナルド・フェイゲン、ウォルター・ベッカーという鬼才(変人か?)2人組。デビュー当時は5人組のバンドだったが、徐々にメンバーが脱退してゆき最終的にはセッションマンを多用する超完璧主義ユニットと化す。1982年頃一旦解散しているが、90年代に入って再結成・・現在に至る。

最初に聴いたときは、それはそれは大変な衝撃だった。今でもよーく覚えているが、それは先輩の自宅でのこと。今は無き石川町のシェルガーデンに於ける大学のサークルの定期演奏会が終わって、帰れなくなっちゃった私は師匠である先輩のお宅に泊めてもらった。そこでいろんな曲を聴きながら一晩中音楽談義をしたわけだが、そのとき先輩がかけた1枚にスティーリー・ダンの“幻想の摩天楼(THE ROYAL SCAM)”があった。冒頭の曲は“滅びゆく英雄(キッド・シャールメイン)”である。“キッド・シャールメイン”・・・超ぶっ飛んだなァ~。今まで数限りない音楽を聴いてきた中でも最大級の衝撃だった。当時の私にとってはソフィスティケーションの極みと感じられた。単純だけど妙にかっこいいサビの女声コーラスやカールトンのコードトーンをうまく使ったギター・ソロ、独特の刻みの16ビートなどなど、“こ~んなかっこいい音楽があったのか!”と、帰りの電車の中までその余韻を引きずっていた。そして早速買い求めたのは言うまでもない。

今では全作揃えているけど、最初にインパクトを受けたせいなのか、やっぱり“幻想の摩天楼”が一番好きだ。一般的にスティーリー・ダンの最高傑作は“幻想の摩天楼”の次に発表された“彩(エイジャ)”とされている。人によっては“ガウチョ”と言うかもしれない。この上ない完成度を誇る“彩”も“ガウチョ”も大好きだけど、私の1番は“幻想の摩天楼”なのだ。スティーリー・ダンのアルバムでこの作品だけ異質に感じる。私はスティーリー・ダンには1stの“キャント・バイ・ア・スリル”から4thの“うそつきケイティ”までの作品群、5th“幻想の摩天楼”の1枚、6~7thの“彩”と“ガウチョ”の2作の3つのカラーがあると思っている。1~4まではわりとキッチュさがあったり、プレイにもバンド・サウンドっぽい下世話さがある。6~7は録音状態もめちゃくちゃ良く、楽曲もプレイも極度に洗練されていてこれ以上はないだろうってところまで来ちゃっている。特にバーナード・パーディーやチャック・レイニー、ラリー・カールトン、スティーヴ・ガッド、トム・スコット・・・といった超一流セッションマンによる演奏は本当に凄い。大体同じ時期にジノ・ヴァネリの“ブラザー・トゥ・ブラザー”や“ナイトウォーカー”、エアプレイの唯一作などが発表されているけど、それらが音を重ねて重ねて作られているのに対し、スティーリー・ダンの“彩”、“ガウチョ”は引き算の美学をいうか、曲が呼吸できる“間”が大いに開けられている感がある。リズム自体が落ちついたテンポで、ジノ・ヴァネリらと比べるとスカスカなのだ。このスカスカ感が生み出すグルーヴがまさに後期スティーリー・ダンのエッセンスで、並みのプレイヤーじゃ再現できない職人芸なのである。“ブラック・カウ”なんかまさにそれ。私もライヴでやったことがあるけど、やるんじゃなかった・・・

さて、肝心の“幻想の摩天楼”・・・バンドのスティーリー・ダンからユニットのスティーリー・ダンへの過渡の作品で、個人的にスティーリー・ダンの中でも異色作と捉えている。他のどの作品とも違う音なのだ。“彩”や“ガウチョ”ほど洗練されてはいないけど、初期作ほどロック・フレイバーもない。フュージョンっぽいと評する人もいるようだが、私はそうは思わない。このアルバムはワン・アンド・オンリーの音なのだ。大いにエキセントリックではあるものの、捨て曲が1つもない。すべての楽曲が不可欠なほどアルバムとしてソリッドである。さらには冒頭の“キッド・シャールメイン”から最後のタイトル・チューン“幻想の摩天楼”まで曲の順番も完璧で、入れ替えなど考えられない並びになっている。先輩宅で聴いた“キッド・シャールメイン”にぶっ飛ばされて購入したアルバムではあるが、購入から20年近く経って、トシを取った今惹かれるのは“狂った町”と“緑のイヤリング”である。ともに超エキセントリックでヒット性のかけらもない曲だけど、そのエキセントリックさが30台後半アラフォーの耳には大変心地よい。スティーリー・ダンの詞の世界はどれも奇妙で難解だが、“緑のイヤリング”はことのほかヘン。何を表現しているのか未だにわからん(笑) “狂った町”はダークな過去を持つ男が、その過去を消し去り別人と偽って世の中に紛れ込もうとするストーリー。彼らの曲にはこういうピカレスクな内容を持つものが多い。この2曲はそんな詞の内容よりも、天晴れなサウンドに惹かれる。“狂った町”はポール・グリフィンのピアノがお見事。イントロの導入部でまず曲のカラーを決定しており、淡々と物語を綴るドナルド・フェイゲンの歌との掛け合いのように挟まれるユニークなオブリガートは「はい、それからどーした?」という合いの手に聞こえてならない。このセンス、実に素晴らしい。“緑のイヤリング”は、ぶっきらぼうとしか言いようのない断片的なローズのリフが最高。リフが断片的でもリズム隊は妙にドライブしている。まさに奇人変人2人組の真骨頂ここに有り!といった感じの作風。詞の内容もそうだが、まともな感性の人間ならあんな曲は書かんだろ。ソロはオリジナル・メンバーのデニー・ダイアスと、セッションマンのエリオット・ランドールが担当。ともにいいソロを弾いている。個人的にデニー・ダイアスはかなり好きで、“彩”の有名なスティーヴ・ガッド対ウェイン・ショーターの掛け合いが始まる前のジャジィなソロは大変気に入っている。最初カールトンかと思ってたが、デニーらしい。デニー巧いでないの 

スティーリー・ダンはこれまで数回来日していて、私は初来日の94年に続き96年、2000年の公演は見に行った。中でも94年の公演は最高だった!代々木オリンピックプールという最悪な会場で、「これでS席かよ!?」と文句の1つも言いたくなるような席だったが、演奏は素晴らしかったなァ・・。このときはドラムがピーター・アースキンで、最初は彼が気になっていたものの、演目が進むにつれギタリスト、ドリュー・ジングの大変素晴らしいプレイに引き付けられた。彼はまさしく圧巻だったな。“ペグ”のジェイ・グレイドンのソロをどう弾くか見てたら、たいていのギタリストはグレイドンのプレイに似通ったような弾き方をするんだけど、ジングはまったく自分流のソロを弾いてみせた。そんでこれがまた最高なのよ・・!「こんなギタリストいたのか?」と思うと同時に、ジングをメンバーに選んだフェイゲンとベッカーの慧眼もさすがと言わざるを得ない。何気に96年公演もジングが来ることを期待していたのだが、残念ながら別のギタリストだった。しかし96年は酷かったねえ 武道館という会場もダメダメだが、イントロで演奏が止まること数回・・完璧主義のスティーリー・ダンとしてあるまじきことだと思ったよ。


幻想の摩天楼(紙ジャケット仕様)
ユニバーサルインターナショナル
2010-04-01
スティーリー・ダン

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これを聴いてないなん ...
天国に持っていくCD ...
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彩(エイジャ)(紙ジャケット仕様)
ユニバーサル ビクター
2000-05-03
スティーリー・ダン

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寸分のスキもない仕上 ...
素晴らしく志の高い音 ...
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ガウチョ(紙ジャケット仕様)
USMジャパン
2008-06-25
スティーリー・ダン

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この記事へのコメント

すてっぷ
2010年06月17日 23:20
いよいよきましたね、スティーリー・ダン。96年来日公演は確かに、「え~(;_;)!?」と思いましたが、今にして思えば「彼らも人間だったのね(●^o^●)」みたいな親しみや、ある意味決定的瞬間を目撃したようなおトク感があったりします。
2010年06月18日 08:12
ん~、あのときはツアー・メンバーの力量も大したことなかったのかもしれませんね。フェイゲン&ベッカーの目が狂うときもあるってことなんでしょうかねェ(笑) それにしても初来日時は是非見てほしかったですよ。あれ映像残ってないのかな?
99
2010年06月19日 16:11
映像は僕も探してはみましたが、見つからないです。チケットが手に入らず、泣く泣く断念したライブでしたから。でも...、当時彼等が来日中に都内の某和食屋で、フェイゲンに凄くよく似た風貌とハスキー(?)ボイスのおじさんのいる外国人一団に遭遇。僕としては、フェイゲンだと思いたい!外国人の見分けがつかない故の思い込みか?タイガー・ウッズが「僕デンゼル・ワシントンです」って言って現れたら、確実にデンゼル・ワシントンだと思うだろう僕のね...(*_*)。
GINO
2010年06月19日 17:17
99さん、ほんとにあの初来日公演の映像記録があれば、是非とも見てもらいたい☆ 1曲目はまさかの“幻想の摩天楼”でした。あの重苦しいイントロが始まって、舞台両端からフェイゲンとベッカーが登場して、舞台中央で握手してましたっけ。それにしてもドリュー・ジングは凄かった。ピカイチの職人でしたよ。どシブのプレイで、一緒に見たベーシストの友人も「あのギタリスト巧かったねェ~」と、えらい感心してたのを覚えてます。
99
2010年06月19日 23:45
一曲めに持ってきましたか!シブイ、シブすぎる!フェイゲン&ベッカーのメガネにかなうミュージシャンだから、職人芸披露しまくりだったんでしょうね。実はさっき知ったのですが、うちの奥さんがその公演に行ってたらしい。当時付き合ってた人の付き合いで行っただけで、「よく覚えてない」とのこと。勿体無い(ToT)!
2010年06月20日 07:45
2000年の公演は東京国際フォーラムだったんですが、初来日公演こそフォーラムで見たかった気分ですわ。あのホール、音いいからナァ。初来日を見た奥様は当時20台だったと思うんですが、スティーリー・ダンを聴く20台女性って、私は大学のサークル以外では会ったことないですヨ(笑) でも“好きなアルバム”と訊かれて、“ザ・ナイトフライ”とかさらっと言える女性がいたらウルトラかっこいいな~、なんて思ってしまいます。
すてっぷ
2010年06月20日 22:22
ザ・ナイトフライってスティーリー・ダンでしたっけ。フェイゲンのソロだった記憶が...。でもでも、個人的にはロイヤル・スキャム、エイジァの上をいきます。全曲白眉の極みなり!1曲めのイントロ初めて聴いた時「スティーリー・ダンはフェイゲンのスティーリー・ダンなんだ」と思ったのを覚えてます。あ、20歳当時の私、かっこいいですね(^O^)ヾ(^_^;)。
2010年06月21日 06:50
そう、ナイトフライはフェイゲンのソロです。でも私の中では≒スティーリー・ダンなもんで(笑)“彩”、“ガウチョ”と並んだ3部作(?)として捉えています。ジャケから中身まで、あのアルバムは全てが完璧ですね。特に“ルビー・ベイビー”が大好き!ロカビリーのスタンダードをあんな粋なアレンジにしちゃったフェイゲンはやっぱりさすがです。
おにぎり
2010年06月23日 22:08
スティーリー・ダン、大人の音楽に恐る恐る触れてみました。今までTOTO、ZEP、クイーンにビートルズと沢山のモンスターバンドの曲に触れその都度衝撃を受け、影響を受けたけど、スティーリー・ダンはジワジワと体の奥まで入ってきて、体の芯にドカンときました。こんな言い方ではわけわからないと思いますけど、スゴイです。アニメでいえばTOTOなんかはルパンのかっこよさ、スティーリー・ダンは次元のかっこよさみたいな。ますます解らないすかね。ちょっとテンションあがりきってます(@_@)。
2010年06月24日 08:26
スティーリー・ダンは洋楽の中でもとりわけ玄人受けする部類のアーティストですので、10台のリスナーはほとんどいないんじゃないですかねェ?日本では特に。私が行った3回のライヴでも、スーツの男女がたくさん来てましたよ(笑)本国アメリカだと割と幅広い年代に聴かれているようです。いずれおにぎりさんもアウディTTでも買って、いいオンナを横に乗せて“バビロン・シスターズ”あたりかけながらナイト・クルーズしてください。スティーリー・ダン聴いて“クールね、これ”とさらっと言えるいいオンナを乗せてね。
おにぎり
2010年06月24日 23:26
アウディなんて恐れ多いっす。きっとマーチくらいかな(^_^;)。かっこいいいい女も...どーなんでしょー?さっきのコメ後半読ませてもらって、GINOさんとすてっぷさんのクールで大人なナイトクルーズなんて実現したらかっこいいんだろな、なんてつい考えちまいました。お二人が面識ないかもしれないし、あったとしても勝手にスミマセンm(__)m。でもスティーリー・ダンや都会の夜景や洋ものの酒が似合うような大人になりたいっす(^_^)。
2010年06月25日 07:53
いやいや、私は独身ですがすてっぷさんは結婚してらっしゃいますので、ナイトクルーズはちょーっとマズいっしょ~(大笑!!) あーそうだ、この前おにぎりさんの大事なハニー“エビまよ”さんからコメントいただきましたよ。“アイスクリーム”のとこで。かわいらしい方じゃないですか。スティーリー・ダン聴きながらアウディでドライブするのはハニーで決定すね
99
2010年06月26日 23:54
こんばんは。おにぎりさんに同感。GINOさんとすてっぷさんのナイトクルーズはかなりお洒落でクールになりそうですな。お二方が学生時代にでもブログ外で(実生活で)出会ってたら、すごくクールで良い意味でマニアックなカップルが誕生したのではなどと思ったりしますね。
2010年06月27日 07:46
あれまぁ99さんまで・・ 首都高のナイトクルーズは、女性が隣にいればサマになりますが、私の場合たいてい1人か友達(野郎です)と一緒だったりします(大笑) そんでシャカタクとかペイジズとか聴いてんの 女性の友達も何人かはおりますが、音楽の嗜好は私とまるで違う人種ばかりで、あいつらとクールなナイトクルーズなんてのは有り得んでしょうなァ・・

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